運送・商法

引っ越し業者に荷物を傷つけられたら?

そろそろ引っ越しシーズンが到来しますね。
皆さんの中には、引っ越し業者に依頼をしたら、引っ越し中に荷物に傷をつけられたというような経験がある方もいらっしゃるかと思います。
そこで、引っ越し業者に荷物を傷つけられた場合の対処法について、国土交通省の標準引越約款等も参照しながら、重要な点を解説します。
※標準引越約款→ https://www.mlit.go.jp/common/001279970.pdf

荷主は何をする必要があるか?

引っ越し業者がその不注意によって荷物に傷をつけた場合、当然、引っ越し業者はその損害を賠償する責任を負います。

引っ越しの依頼者(荷主)は、「引っ越し業者による荷物の受取(業者による荷造りを含む。)」から「引っ越し先での荷物の受領(業者による開梱を含む。)」まで間、つまり、引っ越し業者の支配下にある間に荷物が損傷したことを立証する必要があります(標準引越約款22条本文)。

実際には難しいところもあるかもしれませんが、まずは引っ越し前に、荷物の状態を撮影するなどし、また、引っ越し直後に傷の有無を確認して、傷を発見すれば直ちに写真撮影をすることで、引っ越し業者の支配下にある間に荷物が損傷したことを証明できることに繋がります。

なお、仮に引っ越し業者の支配下にある間に荷物が損傷した場合であっても、引っ越し業者の側が運送の全ての過程において注意を怠らなかったことを証明したときは、損害賠償をしてもらえません(標準引越約款22条ただし書)。
ただし、引っ越し業者はプロですので、運送の全ての過程において注意を怠らなかったことを証明するのはかなりハードルが高いと思われます。

※美術品、ピアノ等の特殊品は、引っ越し業者がその内容を知って引き受けた場合に限り、損害賠償責任を負います(標準引越約款24条1項)。
※パソコン等の電子機器についてその申告がなかった場合、引っ越し業者は、通常どおりの注意をすれば足り、電子機器であることを前提とした特段の注意を怠っていたとしても、その電子機器の損傷についての責任は負いません(標準引越約款24条2項)。

荷物の傷を見つけたら、まずは引っ越し業者に通知を!

あまり知られていませんが、実は、引っ越しの荷物が損傷した場合には、荷主による荷物の受領から3か月以内にその損傷の通知をしない限り、引っ越し業者の責任が消滅してしまいます(標準引越約款25条1項)。

季節物の荷物などは、その使い始めのシーズンが来るまで段ボールを開けずに放置することもあるかと思いますが、引っ越し後3か月を過ぎると、たとえその荷物の損傷に気付いたとしても、引っ越し業者がその賠償に応じない可能性があります。

そこで、引っ越し後、できるだけ早く、梱包の中身を確認し、損傷がないかだけでも確認することが大事です!

なお、上記の3か月以内の通知をした上で、引っ越し業者と協議をし、満足いく回答がなかった場合には、裁判等で請求することも視野に入れなければなりませんが、この損害賠償請求権は、荷主による荷物の受領日から1年で消滅(除斥期間)してしまいます(標準引越約款27条1項)。

したがって、引っ越し業者との協議がまとまらなかった場合には、速やかに弁護士に相談するなどし、早期に次の手を打つ必要がある点も頭の片隅に入れておいてください。

損害賠償の額

引っ越し業者が責任を負う場合の損害賠償額は、実際に生じた荷物の損傷の額となります(標準引越約款26条1項)。

例えば、修理代が発生した場合には、その修理代相当額です。
また、修理不能でもう使えないような場合であれば、その損傷した荷物の時価相当分が賠償されます(必ずしも新品の代替品の購入費となるわけではありません。)。

保険の利用

引っ越しに関する保険は大きく2種類に分かれます。

① 運送業者貨物賠償責任保険(引っ越し業者が加入)

② 引越荷物運送保険(荷主が任意に加入)

①運送業者貨物賠償責任保険は、通常、引っ越し業者が加入しているものです。業者によっては、保険料の増額を避けたい等により、保険を使わずに自社で賠償したいと言うかもしれません。保険を使うかどうかは業者の判断にはなりますが、荷主側としては、とにかく適切な損害賠償をしてもらうという姿勢で協議することになるでしょう。

②引越荷物運送保険は、荷主が任意で加入するものです。数千円程度で加入できるものもあるようです。この保険に加入するメリットは、引っ越し中に発生した損傷であることがわかれば、基本的には保険により補償されるので、上記のような引っ越し業者とのタフな交渉をしなくてもいいという点にあると思われます。
もっとも、引っ越し代金以外に保険料分の負担をするのは避けたいと思われるかもしれませんし、基本的には、発生した損害は引っ越し業者への請求という形で補償されることが通常かと思いますので、保険加入は必須とは言えないでしょう。

最後に

以上、国土交通省の標準引越約款に基づいて、引っ越し荷物に損傷があった場合の荷主の対処法を見てきました。
引越約款は、各引っ越し業者の独自のものを使っている場合があるので、まずは見積時等に約款を見せてもらうようにしましょう。
標準引越約款では、見積時に約款を提示することになっています(標準引越約款3条6項)。

これから引っ越し業者に引っ越しを依頼しようとされている方は、上記のような点に注意していただき、トラブルなく引っ越しを終え、スッキリとした気持ちで新しい生活をスタートされることを心から願っています!