運送・商法

標準宅配便運送約款の改正点【保存版】

2018年の商法(運送・海商関係)改正を受けて,国土交通省が定める「標準宅配便運送約款」(以下「約款」)も改正されています。

皆さんが身近で使う運送サービスといえば,宅配便だと思います。

そこで,その改正点について,網羅的に解説していきます!
※運送会社が標準宅配便約款を使っているのか,又は独自の運送約款を使っているかについては,各社HP等でご確認ください。

1 送り状のメール送信

貨物の運送を運送会社に委託する際には,荷送人の氏名・連絡先,配達先,電話番号,配達指定日時等を記載すると思いますが,これを「送り状」と呼びます。

商法改正により,この送り状が,紙媒体のものだけでなく,メール,FAX,ウェブサイトでの入力等の「電磁的方法」でも可能であることが明示されました(新571条2項)。

これを踏まえ,約款3条2項にも,電磁的方法による送り状の発行があり得ることが明示されました。

3条 (略)
2 前項の送り状の発行は、電磁的方法により行うことがあります。

2 危険物通知義務

改正商法の一つの目玉として,荷送人が危険物の運送を委託する場合には,運送人に対し,その旨及び品名,性質その他の運送品の安全な運送に必要な情報を通知しなければならないという規定が新設されました(新572条)。

これを受け,約款7条の2にも,同様の規定が新たに設けられました。

(危険品についての特則)
第七条の二 荷送人は、爆発、発火その他運送上の危険を生ずるおそれのある荷物については、その旨を当該荷物の外部の見やすい箇所に明記するとともに、あらかじめ、その旨及び当該荷物の品名、性質その他の当該荷物の安全な運送に必要な情報を当店に通知しなければなりません。

3 運送品の中止等請求権の行使

細かすぎて「グロ注意」です。

荷送人は,運送品が運送中に壊された等の場合には,運送人に対する損害賠償請求権を取得しますが,運送品が到達地に到着し,又は運送品の全部が滅失したときは、荷受人もこの損害賠償請求権を取得することとされています(新581条)。

この場合の荷送人の請求権と荷受人の請求権との関係について,旧商法でも,荷受人の権利が優先すると解釈されていましたが,明文規定はありませんでした。

改正商法では,この点を明文化し,次のような規定を置きました。

(荷受人の権利義務等)
第五百八十一条 荷受人は、運送品が到達地に到着し、又は運送品の全部が滅失したときは、物品運送契約によって生じた荷送人の権利と同一の権利を取得する。
2 前項の場合において、荷受人が運送品の引渡し又はその損害賠償の請求をしたときは、荷送人は、その権利を行使することができない
3 (略)

これを受け,約款15条2項でも,同様の書きぶりに改められました。

(指図)
第十五条 荷送人は、当店に対し、荷物の運送の中止、返送、転送その他の処分につき指図をすることができます。
2 前項に規定する荷送人の権利は、荷受人に荷物を引き渡したときは、行使することができません。
3 (略)

いやー細かいですねー。テンション上がりますねー。

4 「損傷」

運送品が傷ついた場合等のことを,旧商法では「毀損」と書いていましたが,これは古い言い回しなので,改正商法では,「損傷」に言い換えることとされました。

約款でも,これを受け,「き損」という語を,「損傷」に直しています。

5 運送人の損害賠償責任

運送品の滅失,損傷又は延着についての運送人の損害賠償責任についての規定は旧商法にもありましたが,改正商法では,より分かりやすく,立証責任の分担等を明示した規定にリニューアルしました。

(運送人の責任)
第五百七十五条 運送人は、運送品の受取から引渡しまでの間にその運送品が滅失し若しくは損傷し、若しくはその滅失若しくは損傷の原因が生じ、又は運送品が延着したときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。ただし、運送人がその運送品の受取、運送、保管及び引渡しについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。

これを受け,約款にも同様の規定に改められました。

(責任と挙証)
第二十一条 当店は、荷物の受取から引渡しまでの間にその荷物が滅失し若しくは損傷し、若しくはその滅失若しくは損傷の原因が生じ、又は荷物が延着したときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負います。ただし、当店が、自己又は使用人その他運送のために使用した者が、荷物の受取、運送、保管及び引渡しについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りではありません。

6 除斥期間

運送品の滅失等による損害賠償請求権は,旧商法では,1年又は5年の消滅時効にかかるとされていましたが,改正商法では,運送人の責任の早期確定という趣旨から,1年の除斥期間に改められました(新585条)。

そこで,約款でも,1年の除斥期間の規定に改められました。

(除斥期間)
第二十七条 当店の責任は、荷物の引渡しがされた日(荷物の全部滅失の場合にあっては、その引渡しがされるべき日)から一年以内に裁判上の請求がされないときは、消滅します。
2 前項の期間は、荷物の滅失等による損害が発生した後に限り、合意により延長することができます。
3 荷送人が第三者から委託を受けた荷物の運送を当店が行う場合において、荷送人が第一項の期間内に損害を賠償し又は裁判上の請求をされたときは、荷送人に対する当店の責任に係る同項の期間は、荷送人が損害を賠償し又は裁判上の請求をされた日から三月を経過する日まで延長されたものとみなします。

あと,細かいですが,約款24条3項も追加されてますね。第三者である実荷主から荷送人が運送委託を受け,その荷送人が宅配便会社に運送を再委託した場合のお話です。細かいのでこのくらいで。。

さいごに

商法改正を受けた標準宅配便約款の改正ポイントを見てきましたが,いかがでしょうか?正直なところ,大きな変更はないなーというのが実際のところではないかなと思います。

ただし,上記2で説明した荷送人の危険物の通知義務だけは注意してくださいね。これに違反して通知を忘れていて,運送中に貨物が爆発したとき等は,荷送人が莫大な損害賠償責任を負ってしまうので,くれぐれもご注意ください(荷送人に故意・過失がなければ,免責されますが)。