2019年4月1日に既に施行された「商法及び国際海上物品運送法」の改正法。
お陰様で各種標準約款やモデル契約書等の改訂をいただいている一方で,改正されたこと自体を認知いただいていないケースもあり,今一度,立案担当者として,周知活動に努めねばという思いです。
ということで,あらゆる雑誌記事やコラムでペン(タイピング)タコができるほど繰り返してきていますが,改めて,改正法の重要事項 10選をおさらいしましょう!これでアナタも運送・海商マスター!!
改正法の概要
商法においては,次に詳述するような運送・海商の改正のほか,これ以外の片仮名文語体の規律が残る分野(仲立営業,問屋営業及び寄託)についても,平仮名化する改正がされており,今回の改正によって,「商法」の全ての規律が平仮名化されることとなりました(これだけでも大変な作業ですよw)。このように,今回の改正法は,我々ユーザーにとって,商法全体の理解が容易になるものであるという点でも大いに歓迎すべき改正であると考えます。
改正法のうち,実質的な改正がされる運送・海商の規律の主なものは,次のとおりです。
(1) 航空運送・複合運送
各種運送に関する総則的規律を設け,現在は規定を欠いている「航空運送」や,陸上・海上・航空を組み合わせた「複合運送」にも,これを適用することとされました。また,複合運送の運送人の責任は,運送品の滅失等の原因が生じた区間に適用されることとなる法令又は条約の規定に従うこととされました。
改正後の各種運送の適用関係についての一覧表は,次のとおりです。
(2) 危険物に関する通知義務・荷送人が無過失の場合の免責
危険物に関する通知義務については,多様化する危険物の安全な運送を確保するという観点から,運送品が危険物である場合に,荷送人に危険物に関する通知義務を課す規定を新設することとされました。
法制審議会商法部会では,この通知義務に違反した荷送人の損害賠償責任の在り方に関して,荷送人に帰責事由がない場合にも荷送人が責任を負うか否かについて,意見が大きく分かれましたが,様々な議論を経た結果,最終的には,荷送人は,危険物に関する通知義務に違反した場合には,これによって生じた損害の賠償責任を負うが,その違反につき荷送人に帰責事由がないときは,荷送人は賠償責任を負わないとすることとされました。
これは,物流においては,製造業者・商社・利用運送事業者・消費者など様々な関係者が危険物の荷送人となるところ,各自の帰責事由の有無に応じた弾力的な判断ができるようにすべきであることなどの理由によるものです。
(3) 運送人及びその被用者の不法行為責任の軽減
旧商法では,運送品が高価品であることを荷送人が申告しなかった場合における運送人の責任の免責規定,運送人の損害賠償額の定額化等の運送人の契約責任を軽減する規定は,基本的には,運送人及びその被用者の不法行為責任には及ばないと解されていましたが,これらの規定の趣旨を没却させないようにするため,その効果を運送人及びその被用者の不法行為責任についても及ぼすこととされました。
この改正,契約責任についての規定が不法行為責任にも適用されることを明記する画期的なものなんですが,全然注目されてない!w
(4) 旅客運送人の責任に関する片面的強行規定
旅客運送人の責任について,旅客の安全確保の観点から,旅客の生命又は身体の侵害による運送人の責任を軽減する特約を一律に無効とすることとされました。ただし,運送事業の合理的な運営や真に必要な運送の確保等の観点から,運送の遅延を主たる原因とする運送人の責任や災害地における運送及び重病人等の運送については,例外的に免責特約の余地を残すこととされました。
(5) 定期傭船
海運実務上頻繁に利用される定期傭船契約(船舶所有者等が艤装〔航海に必要な装置等を設置すること〕して船員を配乗した船舶を一定期間相手方に利用させる契約)について,新たな契約類型として,基本的な規律を新設することとされました。
海運業界待望の規定です!…よね!?w
(6) 堪航能力担保義務の過失責任化
国内海上運送における堪航能力担保義務(船舶の整備や適切な船員の配乗などによって船舶が安全に航海をする能力を有することを担保する義務)について,旧法の下では,この義務違反による責任は無過失責任であると解されていました(旧商法738条,最高裁昭和49年3月15日判決参照)が,国際海上運送とのバランス等を踏まえ,国内海上運送に関しても,堪航能力担保義務違反による責任を過失責任に改めることとされました。
(7) 海上運送状
貿易実務上船荷証券に代えて頻繁に利用される海上運送状(Sea Waybill)について,基本的な規律を新設することとされました。
有価証券(船荷証券等)ではない,単なる証拠書類に関する規定の新設の立法事実を内閣法制局に説明するのは,大変なんですよね。。
(8) 船舶の衝突によって生じた債権の消滅時効
旧法では,船舶の衝突による物損に関する不法行為責任は,被害者が損害及び加害者を知った時から1年の消滅時効に服するとされていました(旧商法798条1項,最高裁平成17年11月21日判決参照)が,国際条約とのバランス等を踏まえ,不法行為の時から2年の消滅時効に服することとされました。
なお,人身損害に関する不法行為責任については,人命尊重の見地から,国際条約とは異なり,商法に短期消滅時効の規律を設けず,改正民法724条により,加害者等を知ってから5年の消滅時効に服することとされました。
(9) 海上保険
海上保険について,加入の際には保険契約者の側で危険に関する重要事項を告知すべき旨を明文化することとされました。
(10)国際海上物品運送法の改正
国際海上物品運送法が定める運送人の責任限度額に関して,その元となっている国際条約(ヘーグ・ヴィスビー・ルールズ)についての諸外国の解釈に対応するという観点から,運送品1包ごとに各別に責任限度額を定めるのではなく,運送品の全体につき責任限度額を定めるように改めることとされました。
以上,重要な改正事項・10選でした!
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